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地場産業衰退からの脱却 ”陶育”のススメ:角山製陶所 伊藤真さん

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かつて岐阜県土岐市は、陶器の町として栄えてきました。商売としてもかなり潤っていた、という話はよく耳にします。

 

しかし今や地場産業の衰退の波に飲まれ、製陶所が閉鎖に追い込まれているところも少なくありません。

 

そんな中、窮地から脱却を図るべく多方面にビジネスチャンスを模索し、後世に残そうと奔走する角山製陶所(かくやませいとうじょ)の伊藤真(いとう まこと)さんにお話しを伺ってきました。

 

深刻な後継者問題と、高年齢化

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──本日はよろしくお願いします。地場産業の陶器生産、あまりいい噂を聞きませんが実際のところどうでしょうか?

 

陶器業界はお察しの通り、後継者は不足してますよ。うちも例外じゃありません。後継者だけじゃなくて、市場そのものが縮小してる感じはします。

 

ただ純粋に陶器が不要になったかというとそればっかりでもないかな?とも思うんです。陶器関係会社の高齢化も原因の1つなんじゃないかなぁ。

 

陶器商(陶器の仲買)や窯焼き(製陶所、陶器の生産工場)は家族経営が多いでしょ。それで子供が後を継がない、ってなるとどんどん年齢が上がってくる。

 

ずっと陶器を作って販売してるんで、昔ながらのお客さんがいます。それで高年齢化してくると、新しく顧客を開拓したり営業したりするエネルギーが沸かなくなってきます。だから馴染みのお客さんからの仕事しかしないよ、ってとこも出てきてるんです。

 

──ある程度の季節や時期に、勝手に注文が入ってくるんですね。

 

そういうことになりますね。でもそれって「待ちの姿勢」です。何かが原因になって取引先が倒れてしまうと、その分取引が減ってきます。そのまま新しく仕事を取ってこれないと、苦しくなってくるのは目に見えてますから。

 

僕の製陶所、というかこのあたりの地区では湯飲みや茶わんを主に作っています。型に入れて同じものを作っていくんですが昔ながらの仕事はそれ。

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ただそれだけでは毎日減っていって「暇だなぁ」となってしまうのもマズいので、さすがにこちらからも積極的に動いて対策をしています。

 

「三本柱」でビジネス展開! インターネットの力を肌で感じた瞬間

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──伊藤さん個人で、また角山製陶所で「こうしていこう」っていうビジョンはありますか?

 

角山製陶所として「三本柱」でがんばっていこうと思っています。というかすでにスタートはしてるんですが、その三本柱っていうのは・・・

 

1つ目は昔からある仕事で、型を使って生産していく製陶所本来の仕事です。もちろん昔からの付き合いもあって、定期的に注文が入りますからこれは軸としてやっていくことになります。

昔は在庫として持ってくれていたのが、今はほとんど在庫を持たなくなってきたところが多い。だから納期がけっこうギリギリになることもあるんで、仕事に追われていることも多いですね。

 

2つ目は「手作り」。やっぱり型を使って大量生産、同じものをたくさん作っていると希少価値、付加価値ってものはつかない。なので自分で作りたいものをオンリーワンで作っていく。

いわゆる陶芸作家の仕事になります。

ただこちらは最近色々忙しくなってきてしまったのもあって、ちょっと停滞してるかなぁ・・・気持ちはあってもなかなか進まないという感じです。でも「自分が良い!」と感じたものを手作りで作って発信していきたい、そうすることで付加価値も高まる、と考えています。

なのでこれは僕がもうちょっとがんばらないとね。

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最後3つ目は「陶芸教室」。この陶芸教室も角山製陶所のホームページで募集して、ずいぶん前からやってはいたんです。

けれどそんなにお客さんが入るイメージはなくて、ポツリポツリって感じでした。それがアクティビティの予約サイトに登録をしたんです。

それが2年くらい前だったかな。

 

そこに登録してからは陶芸教室のビューもかなり伸びて、体験の申し込みが増えていますね。「土岐市に旅行に行こう」って思う人がそういうサイトを使って、周辺のアクティビティを探して、うちを選んでくれてます。

 

最初インターネットはあまり信用してなかったというか(笑)でも明らかに広く認知されるようになってきたので「インターネットすごいなー」って関心しました。

 

「製陶業」「手作り」「陶芸教室」この3つを柱にして今はけっこう忙しくさせてもらってます。

 

陶芸教室で小さな頃から陶器に触れてもらいたい

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──陶芸教室ではどんなお客さんが多いですか?

 

もちろん色んな方がいて、外国人の方もちらほら見ますね。あとこの時期(取材日は夏休み明けの9月中旬)は、夏休みの作品作りのためにきてくれる子供さんも結構いるんですよ。

 

そんな子供さんたちにも可能性を感じています。っていうのは、小さな頃から陶器に触れてもらうと記憶に残りますから。そして大きくなったときに友達を連れてきてくれたり、結婚して子供を連れてきてくれたり、芋づる式じゃないですけど。

 

陶器で遊ぶ、いわゆる”陶育”の連鎖になればいいな、と思ってます。

 

この連鎖がつながってくれると、角山製陶所だけじゃなくて土岐市の産業・観光にもいい影響を与えてくれると思ってます。

 

──種まきの時期ではないですが長期的な視点で見れば・・・ということですね。

 

はい、ただ僕も現役で仕事をがんばれるのもあと10年くらいと感じてます。いま52歳ですからね。

あんまり長期的に見ても僕個人としてはあまり関係がないのかもしれません。

 

ただ「角山製陶所」という名前をつなぎたい気持ちは持ってるんですよ。

子どもはいますが、継ぐかどうかはわからない・・・というかウチの子は継がないんじゃないかなぁ(笑)

 

 ──後継者不足は伊藤さんも同じなんですね。

そうですねぇ。正直「なんとかしなきゃ」とは思ってますよ。

なので陶器が好きな若い人に、まずは働いてもらいたい、と考えているんです。

 

ものすごく給料がいい働き口ではないんですが、例えば空き時間には自由に作品を作ってもらってもかまわないし、場所も自由に使ってくれていい。だからモノ作りをしたい、陶芸作品を作りたい!っていう若い人が来てくれれば、働きながら作品を作ることができますから。

最終的には次の世代に「角山製陶所」という看板だけ残してくれればいいかな。

 

陶芸体験で活気づいてきた、まだやれることはある

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そうは言っても「陶芸体験」で活気づいてきた感覚はあります。周りの方からも「忙しくしてるねー」なんて声をかけられることもある。

忙しく見えるのは、三本柱のそれぞれの仕事も含めて色々動いているからでしょうね。動かずに昔からの仕事だけやっていれば、そうは見られません。

 

どこにチャンスが転がっているか分からないでしょ。あと10年、もうそんなに元気いっぱいに働ける時間は残されていないかもしれないけれど、まだまだやれることはありますよ。

 

微力だろうけど陶芸作家としても、陶芸の教室も、やれるうちは続けていって後世に「陶器」っていうモノや技術を残していきたいと思っています。

 

あ、もちろんウチの看板もね(笑)

 

陶器の魅力を陶芸教室と作品を通じて知ってもらいたい

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伊藤さんにインタビューを行っていると、ガツガツと「次へ!次へ!」という若手のようながむしゃらさは感じられませんでした。むしろ飄々とした風貌そのままに、「今やれることをやる」という姿勢。

 

ただ衰退していくのを指をくわえて見ていることを「良し」とせず、いかに次の世代へつなぐことができるのか陶器の可能性を探しているように感じました。

 

もう無理、これ以上できない、と限界を決めてしまうのは自分自身ですが、可能性を見出すのもまた自分自身。陶器という商品に、体験というアクティビティも取り入れて、隠居するいつかその日まで走り続けて欲しいと願っています。

 

そんな陶器に一番ボクらが触れることができるのが「陶芸体験教室」でしょう。都心部のワーキングスペースのようなキレイに整えられた場所ではなく、昔から陶器を作り続けてきた現場の雰囲気をそのまま味わえるロケーションが大きな魅力。

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時がゆったりと流れる空間、澄んだ空気のなか無心でろくろを回す、絵付けをするのもまた一興です。軽妙な語り口で陶作もトークも楽しませてくれる「ヒゲの師匠」の陶芸体験。ぜひ皆さんも訪れてみては?

 

角山製陶所さんでは

○電動ろくろを使った「陶芸体験」

○陶器に自分で絵を描く「絵付け体験」

を楽しむことができます。

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今回取材に訪れたのは

 

名前:角山製陶所(かくやませいとうじょ)

代表:伊藤 真(いとう まこと)

住所:〒509-5146 岐阜県土岐市泉明治町5丁目1番地

電話:0572-55-2886

 

○電動ろくろ体験は¥2,500、絵付け体験は湯飲みが¥500、お皿・お茶碗が¥600(電話での予約、もしくは検索エンジンで「角山製陶所 土岐市 陶芸体験」で検索!)

角山製陶所のホームページはこちら